結論
- 高く売りたいなら出典をたどれたのは3件。散らかりとストレスホルモン、保有効果、モノより経験への支出
- 早く片付けたいなら「ものを減らすと幸福度が上がる」を直接確かめた研究は、今回は見つかりませんでした
- 値段がつきにくいなら「片づけると集中力が上がる」「年収が上がる」は、元をたどれる根拠を確認できませんでした
- 法律確認が必要なら特になし
片づけの記事には、心理的な効果の話がよく出てきます。ただ、読んでいると 「それは本当に確かめられているのか」が気になることがあります。 そこで、出典をたどれるものだけを集めました。 あわせて、たどれなかったものも、たどれないと書いています。
研究で確かめられていること
家を「散らかっている」と表現した人は、日中のストレスホルモンの下がり方が鈍かった
共働きで幼い子どものいる米国都市部の夫婦を対象にした研究。自宅を cluttered(散らかっている)と語った妻は、日中のコルチゾールが健康的に下がるパターンを示しにくかった。一方、自宅を restorative(回復的)と語った妻は下がる型を示した。男性では差が小さかった。
出典: Saxbe, D. E., & Repetti, R. L. (2010). No place like home: Home tours correlate with daily patterns of mood and cortisol. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(1), 71–81. 原典を見る
ただし: 対象は特定の条件の家庭で、人数も限られます。「散らかっていると誰でもストレスが上がる」とまでは言えません。相関であって、因果の向きも確定していません。
人は自分が持っているものを、手に入れる前より高く見積もる(保有効果)
マグカップなどを使った実験で、持っている人が手放すのに求める金額は、持っていない人が買うために払う金額のおよそ 2 倍になった。「売るとなると急に惜しくなる」感覚には名前がついている。
出典: Kahneman, D., Knetsch, J. L., & Thaler, R. H. (1990). Experimental tests of the endowment effect and the Coase theorem. Journal of Political Economy, 98(6), 1325–1348. / (1991) Journal of Economic Perspectives, 5(1), 193–206. 原典を見る
ただし: これは「手放しにくさ」の説明であって、「手放すと幸福になる」証拠ではありません。
同じ金額なら、モノよりも経験に使った方が、後から思い出したときの満足が高い
経験への支出(旅行・体験など)は、物への支出よりも、振り返ったときの幸福感が高く出やすい。人とのつながりや「自分がどういう人間か」という感覚に結びつきやすいことが理由として挙げられている。
出典: Van Boven, L., & Gilovich, T. (2003). To do or to have? That is the question. Journal of Personality and Social Psychology. / Gilovich, T., Kumar, A., & Jampol, L. (2015). A wonderful life: Experiential consumption and the pursuit of happiness. Journal of Consumer Psychology. 原典を見る
ただし: これから何にお金を使うかの話で、いま家にあるものを減らす話とは別です。
よく言われるけれど、確かめられていないこと
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。 片づけの話には、出典のないまま繰り返されている主張がいくつもあります。
「散らかった部屋は集中力を下げる」— プリンストン大学の研究
この形でとてもよく引用されますが、原典として特定できる単一の論文が見つかりませんでした。近いものとして、視覚的に情報が多い状況では注意が奪い合いになる、という視覚注意の研究(Kastner らの一連の研究)があります。ただしそれは画面上の視覚刺激を扱ったもので、部屋の散らかり全体を操作した実験ではありません。**言えるのは「視覚情報が多いと注意が分散する」までで、「部屋を片づけると集中力が上がる」とは別の話です。**
「ものを減らすと幸福度が上がる」
所有物を減らす介入で幸福度が上がったことを直接確かめた査読論文は、今回の調査では見つかりませんでした。**無いことの証明はできませんが、少なくとも簡単には出てきません。** 片づけが気持ちよく感じられるのは多くの人が経験することですが、それが研究で確かめられているかは別問題です。
「片づけると不安やうつが軽くなる」
一般の人を対象にした無作為化比較試験で、片づけによって不安・抑うつが有意に下がったという報告は確認できませんでした。ためこみ症(hoarding disorder)は診断名のある状態で、その治療研究の結果を、そのまま「片づけの効果」として一般の人に当てはめることはできません。
「片づけると年収が上がる」「運気が上がる」
査読論文にも公的な調査にも、出典が見つかりませんでした。日本語の記事ではよく見かけますが、**元をたどれる根拠は確認できていません。**
この記事の限界
ここに書いたのは「今回の調査で見つかった範囲」です。研究が存在しないことの証明はできません。 また、確かめられている 3 件も、対象や条件が限られています。 あなたに同じことが起きるとは限りません。
気分が長く落ち込む、片づけられないことで生活が立ち行かない、といった状態が続く場合は、 片づけの工夫ではなく、医療機関や自治体の相談窓口に相談してください。
それでも片づけをすすめる理由
研究で確かめられていないからといって、片づけに意味がないわけではありません。 ただ、効果の説明の仕方は変わります。 「幸福になれる」ではなく、「探しものの時間が減る」「置き場所が決まる」 「手放したものが値段になることがある」といった、 確かめようのある変化で語る方が正直です。
このサイトが品目ごとに「売れる/売れない」を分けているのも同じ考え方です。 気持ちの変化は人それぞれですが、売れるかどうかは調べれば分かります。